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東京高等裁判所 平成11年(ネ)3895号 判決 1999年12月20日

控訴人

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

丸茂晴男

右訴訟代理人弁護士

森下国彦

古田啓昌

湯光弘

被控訴人

有和土地有限会社

右代表者代表取締役

島崎和洋

右訴訟代理人弁護士

上谷佳宏

木下卓男

幸寺覚

笠井昇

福元隆久

山口直樹

今井陽子

松元保子

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の本件本訴請求を棄却する。

三  被控訴人は、控訴人に対し、二七五万円及びこれに対する平成一〇年二月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、本訴、反訴を通じて、全部被控訴人の負担とする。

五  本判決主文三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」(原判決の別紙「本訴被告(反訴原告)の主張」を含む。)の記載と同一であるから、これを引用する。

一  原判決別紙「本訴被告(反訴原告)の主張」二枚目表四行目及び一〇行目並びに同裏六行目及び七行目の各「不当利得返還請求権(代金増額請求権)」並びに原判決二枚目表末行<本号二一三頁四段一八行目>及び同裏一行目<二一三頁四段一九行目>の各「不当利得返還請求権」をいずれも「代金増額請求権」に、同行目<二一三頁四段二〇行目>の「を返還」を「の支払」に、原判決三枚目表三行目<二一四頁一段八行目>の「実測させた」を「実測して得た」にそれぞれ改め、五行目<二一四頁一段一一行目>の次に行を改めて次のように加える。

「4 被控訴人は、不動産の売買仲介管理等を業とする有限会社である。」

二  原判決三枚目表一〇行目<二一四頁一段一八行目>及び同裏六行目<二一四頁一段三〇行目>の各「民法五六六条一項」をいずれも「民法五六五条」に、原判決四枚目表三行目<二一四頁二段一一行目>の「認められる否か」を「認められるか否か」に、一〇行目<二一四頁二段二四行目>の「返還する」を「支払う」に、原判決六枚目表二行目<二一四頁四段二二行目>、五行目<二一四頁四段二七行目>及び八行目<二一四頁四段三三行目>の各「返還」をいずれも「支払」にそれぞれ改める。

第三  当裁判所の判断

一  前記第二の一の事実(争いのない事実)と証拠(甲一、二、八ないし一〇、乙一ないし一二。枝番のあるものはそのすべてを含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  奥田は、本件土地を相続により取得し、相続税対策の必要からこれを売却することを葵ホーム株式会社(以下「葵ホーム」という。)に委託した。

高岡及び被控訴人(以下この両名を合わせて「被控訴人ら」ともいう。)は、本件土地を奥田の先代から建物所有の目的で賃借し、その地上にアパートを共有してこれを賃貸していた。

2  葵ホームの従業員衛藤順一(以下「衛藤」という。)は、右委託に基づき、本件土地の賃借人である被控訴人らへの売却を考え、平成四年三月ころ、高岡に対し一坪当たり五五万円で本件土地を被控訴人らに売却したい旨申し入れたところ、高岡は、被控訴人と相談した上、一坪当たり五〇万円なら買ってもよい旨を回答し、そこで折衝の結果、一坪当たりの単価を五二万円として被控訴人らが買い受けることの了解がされた。その後、衛藤は、本件土地の面積について、当時奥田が本件土地周辺にある他の所有地について測量を実施していたこともあり、本件土地を奥田側で測量して得た実測面積により売買代金を確定したい旨を高岡に申し入れ、高岡及び被控訴人はこれを了承した。この結果、本件土地の売買代金は、一坪当たり五二万円の単価に奥田側で実測して得た本件土地の面積を乗じて確定することとなった。

なお、本件土地は、被控訴人ら共有のアパートの敷地であって、売買の対象たる土地の客観的範囲は売買当事者間において既に確定しており、右測量は、売買代金額を算定するために行うこととしたものである。また、本件土地の売買に当たり、その元地である大西町<番地略>の土地を本件土地と同番二の土地に分筆したのであるが、公簿上の面積は、分筆前の一一二番の土地につき413.22平方メートル、分筆後の本件土地につき395.51平方メートルと表示されている。

3  奥田は、本件土地の測量を上村測量設計事務所(以下「上村測量」という。)に委託し、同事務所はこれを更に株式会社サトー測地(以下「サトー測地」という。)に委託し、サトー測地は、本件土地を測量したが、求積の際の計算の過誤により、本件土地の実際の面積は399.81平方メートルであったのに、その実測面積を59.86平方メートル少ない339.81平方メートルと算出し、その旨を記載した求積図を作成し、これが上村測量を介して平成四年七月ころ奥田に交付された。

4  平成四年七月三〇日、葵ホームを仲介人として、奥田と高岡及び被控訴人との間に本件土地の売買契約(以下「本件売買契約」という。)が締結されたが、その売買代金は、前記のとおりあらかじめ了解に達していた一坪当たりの単価五二万円を一平方メートル当たりの単価一五万七二九六円に換算し、これに右求積図に基づく実測面積339.81平方メートルを乗じて、五三四五万〇八〇〇円とされた。その売買契約書には、物件の表示として右実測面積が表示され、特約事項欄に「本物件は実測取引とする。」旨が記載され、右求積図が添付された。

5  平成五年四月ころ、前記3の測量の過誤が判明し、これを知った奥田は、衛藤に被控訴人らに対する不足面積に対応する売買代金不足額の支払請求の交渉を依頼し、その依頼に基づき、衛藤は、高岡に対し、売買代金の不足額の支払を請求するとともに、被控訴人に対してもその請求の意思を伝達することを求め、高岡は、被控訴人にその意思を伝えた上で協議をした結果、その支払を拒絶した。衛藤は、そのころ数回にわたり高岡に交渉したが、物別れに終わった。

前記不足面積59.86平方メートルに右4の一平方メートル当たりの単価を乗じた額は、九四一万五七三八円となる。

6  上村測量は、奥田に対し、右求積上の過誤の債務不履行に基づく損害賠償として、平成九年三月から同年五月にかけて右代金不足額に迷惑料を加算した一〇〇〇万円を支払った(ただし、うち六六〇万〇二〇〇円については、上村測量の奥田に対する債権と相殺処理をした。)。

7  サトー測地は、同年一二月四日、上村測量との間で、右債務不履行に基づく損害賠償債務の履行として、上村測量に対し六〇〇万円を支払う旨の示談をした。

8  サトー測地は、控訴人と測量士賠償責任保険契約を締結していたので、控訴人は、同年一二月一八日、サトー測地の上村測量に対する前記債務のうち五五〇万円を、右保険契約に基づき、サトー測地に代わって弁済した。

控訴人は、被控訴人に対し、平成一〇年二月一六日到達の書面をもって、保険代位による右売買代金不足額の請求権の行使として、右弁済額の二分の一(被控訴人負担分)の二七五万円の支払を催告した。

二  前記争いのない事実及び以上認定の事実に基づき、各争点について判断する。

1  本件売買契約は数量指示売買に該当するか(争点1)

前記一2ないし4の事実によれば、本件売買契約においては、売買の対象となる土地の客観的な範囲は売買当事者間において確定していたものの、一坪当たりの単価につきあらかじめ了解に達した上、売買代金額を定めるため本件土地の面積を実測し、その面積を契約上表示し、右の単価に実測面積を乗じて売買代金額を定めたのであるから、本件売買契約は、民法五六五条に規定する数量指示売買契約に該当するものというべきである。

2  売買代金増額請求権の成否(争点2)

民法五六五条、五六三条一項は、数量指示売買における数量不足の場合の売主の担保責任としての代金減額請求権を規定しているが、数量が指示されたところより多い場合(数量過多の場合)については、かかる規定は存しない。右の規定は、有償契約である売買における取引の安全のための法定の担保責任を定めたものと解される上、数量不足の場合の代金の減額と異なり、数量過多の場合に代金の増額を認めることは、一般的には買主に対応困難な不測の不利益を及ぼすおそれがあるというべきであるから、数量過多の場合に、数量不足の場合と同様の要件のもとに(すなわち、数量指示売買に該当するという理由だけで)代金増額請求権を認めることはできないものといわなければならない。

しかしながら、当事者の売買をするに至った経緯や代金額決定の経緯等の個別の事情から、代金の増額を認めないことが公平の理念に反し、かつ、その増額を認めることが買主にとっても対応困難な不測の不利益を及ぼすおそれがないものと認めるべき特段の事情を肯認することができる場合においては、右の規定を類推適用することにより、代金増額請求権を認めるのが相当というべきであり、そのように解することが、民法が数量過多の場合について規定を設けていない趣旨に反するとまでいうことはできないというべきである。

そこで、本件について見るのに、前記一2から4までに認定のとおり、高岡及び被控訴人は、本件土地を賃借して地上にアパートを共有していた者であって、その土地の客観的な範囲を承知しており、その公簿上の面積は分筆前の元地において413.22平方メートル、分筆後において395.51平方メートルと表示されていた(これによれば、被控訴人らとしては、本件土地の面積がおおよそ四〇〇平方メートル程度であることを認識していたものと推認することができる。)ところ、本件売買契約当事者は、契約の締結に先立ち、まず本件土地の一坪当たりの単価を五二万円として売買することを了解した上、本件土地の面積を実測し、その実測面積と右の単価とによって自動的に定まる金額をもって売買代金と決定し、よって、売買契約書上にその面積を表示し、実測取引とする旨を特記して、本件売買契約を締結するに至ったのである。

右の事情に照らせば、本件売買契約の当事者は、もし前記一3の求積上の過誤がなければ、本件土地の正しい面積と右単価とによって自動的に定まる代金額をもって売買契約を締結したであろうことが明らかである(その代金額では被控訴人らにおいて売買契約をしなかったであろうとは考えられない。)というべきであって、増額請求権を認めることにより買主に対応困難な不測の不利益を及ぼすおそれはないものというべく、かつ、右求積の過誤により実際と相違する面積は、売買契約書上表示された面積の約一七パーセントに及ぶのであるから、代金増額請求権を認めなければ、買主の不当な利得と売主の不当な損失を残すことになり、公平を失するというべきである。

したがって、以上の事情のある本件においては、民法五六五条の類推適用により、代金増額請求権を肯定するのが相当であり、奥田は、高岡及び被控訴人に対し、前記一3の不足面積59.8平方メートルと同4の一平方メートル当たりの単価一五万七二九六円により算出される代金額九四一万五七三八円(右両名に対し各半額宛)につき、増額請求権を取得したものというべきである。

なお、被控訴人は、本件売買契約書(甲一)には、数量が不足した場合について代金額を減額する旨の条項(六条)があるが、代金額の増額に関する条項はないから、代金増額請求権は生じない旨主張する。しかし、右条項は、数量不足の場合の担保責任を両当事者の合意に基づくものとして定めたのに止まり、数量過多の場合の代金増額請求権を否定する旨の特約をしたものとまで解することはできないから、右判示の代金増額請求権の成立を否定する理由とはならない。

3  除斥期間の適用及び権利行使の有無(争点3)

数量指示売買における売買代金増額請求権を民法五六五条の類推適用により肯定する場合において、その請求権の行使期間について同条の場合と別異に解すべき理由はないものというべきであるから、民法五六五条、五六四条の除斥期間の規定を代金増額請求権についても類推適用すべきものとするのが相当である。

そして、民法五六四条の除斥期間内にすべき権利の行使は、裁判外によるものをもって足りると解すべきところ、前記一5の事実によれば、奥田は、前記の測量の過誤が判明し、このことを知った平成五年四月ころ、衛藤を代理人として、高岡及び同人を通じて被控訴人に対し、右の過誤により過小に表示された面積に対応する売買代金の不足金の支払を請求し、よって代金増額請求権を行使したものと認めることができるから、本件代金増額請求権は右除斥期間内に権利行使され、かつ、これにより奥田は高岡及び被控訴人に対し、それぞれ前記九四一万五七三八円の半額宛の増額代金債権を取得したものというべきである。

よって、除斥期間の経過による右請求権の消滅をいう被控訴人の主張は、採用することができない。

4  賠償者の代位及び保険代位

前記一6及び7の事実によれば、民法四二二条又はその類推適用により、上村測量は奥田の被控訴人に対する右代金増額請求権に係る代金債権を取得し、サトー測地は前記一7の六〇〇万円(被控訴人に対しては三〇〇万円)の限度で同債権を取得したものということができる。

そして、控訴人は、前記一8の事実により、商法六六二条の類推適用により、前記一8の保険契約に基づきサトー測地に代わって弁済した五五〇万円の半額である二七五万円の限度で同債権を取得したものと解することができる。

5  よって、被控訴人は控訴人に対し、右金二七五万円及びこれに対する弁済期後である平成一〇年二月一六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

三  結論

以上のとおりであるから、被控訴人の本件本訴請求は理由がないものとして棄却すべく、控訴人の本件反訴請求は理由あるものとして認容すべきである。よって、これと異なる原判決を取り消した上、被控訴人の本件本訴請求を棄却し、控訴人の本件反訴請求を認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 濱崎恭生 裁判官 田中信義 裁判官 松並重雄)

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